しかし、甚(はなは)だ激昂する中においても、
私の精神力は何処か冷静な気持ちを保たせた。

『人以上の地位と財を成そうと思うならば、
人並みならぬ困難と犠牲を覚悟しなければならない』

自身その例に漏れず、
はたから見れば順風満帆に見える人生においても、
私はさまざまな修羅場を幾度となく潜り抜けてきた。

…………だからこそ私は我を失わずにいられたのだ。



───────抜けばいい。



先ほどはきっと毛虫などという侮(あなど)りがあり、
本来の力を出し切ることを惜しんでいたのだろう。

私はそれぞれの穴から伸びる鼻毛を束にし、
それぞれの手に掴み、精神統一を図り

…………そして確信を得た。


---------------------抜ける!!!!



「おおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」




私は全身全霊、渾身の力を込め

───挑んだ!
───励んだ!
───戦った!

されど…………。

「…………な、なんだと。」

力の差は歴然。
一本たりとも犠牲にせず、
私の全精力に打ち勝った……


──────────むしろ、伸びている。



もはや呆然(ぼうぜん)と立ち尽くすしかない。

「なぜだっ…!?」

ダンッ!!

そして、うなだれ、やり場のない怒りをこぶしに込め、
壁に当たる情けない男…。

もう下唇を越える以上に毛は伸び、
なんかもう喋るたび気をつけないと口に
変な風に何本か挟まってしんどい。

そんな現状において流石の私も我を失ってしまった。

───────しかし、それも一瞬のこと。

「…………フフ。
私としたが……。」

人間、ここまで驚異的でなくとも、どんな美男も美女も鼻毛は伸びるもの。

そして、いくらモード系と言えど鼻毛を許容する最先端など無いはずだ。

むしろそれは最先端というより


──────────────末期。


>>鼻毛三本目