金子靖・一級建築士事務所 Online Archives 2004

MONTHLY ESSAY ARCHIVE

February ESSEY
■ 
デザインはバランス
 デザインのキモは、トータルなバランス。見た目の造形のバランスも、構造や機能としてのバランス、そしてコストと内容のバランスも。すべてをトータルに考えたバランスをつくりあげることが「デザイン」。
 クルマのデザインを見るとよくわかります。いいクルマは、見た目と内容とコストのバランスがとてもいい。ただし、(日本車のように)いい子ちゃんのバランスである必要もなく、目的に応じて意識的にバランスをくずすことも。イタリア車、フランス車は、そのへんの意識的なバランス感覚がとても絶妙。デザインの妙もそのへんに・・・。
 デザイナーとは、そのバランスを具体的につくりあげる人のことなのです。
January ESSAY
■ 場所のデザイン
 ダイニングテーブルは、四角か、丸か? さあ、どっちがいいですか? どっちでもいいことかもしれないけれど、好き好きでいいことかもしれないけれど、けっこう違いによる影響があるんですね。私も最近実体験しちゃいまして、けっこう驚いた。「へぇ〜、こんなにも違うもんか」って。
 うちは、四角のテーブルを普段使用しているんだけど、あるとき食事をする場所の照明器具が壊れちゃって、その部屋が真っ暗なものだから、急ごしらえで別の場所で、丸く囲めるテーブルでもって家族の晩御飯にしたんです。食卓を囲むメンバーは同じ。食べ物の内容ったっていつもと同じ献立。違うのはテーブルの形のみ。四角か、丸か・・・その違いだけだったのです。そんなんで、食事をしていたんですけれど、あれれ・・・なんかいつもと違うぞって感じになってきた。うちは、子ども達が3人いるんですけど、彼女たちの食べっぷりがまるで違うんです。普段はテレビが気になったり、おしゃべりに余念がなかったりで、あんまり食べない子なんですけど、この日に限って、どんどん手が出るんです。・・・ちなみにうちは、個別におかずが取り分けられているんじゃなくて、大皿に手を出すタイプなんですね・・・いつもと同じ量の料理があるんですが、どんどん減って、ついには完食っ!てな具合。いつもは、けっこう残る料理が、この日に限ってなくなっちゃったんです。食後に妻とも「今日はどうしちゃったんだろ?」って。

 いったい、何が違ったのか? いろいろ検証してみたんです。で、改めてわかったんですね。今まで、うちの子どもは遠いところにある料理には手を出してなかったって。面倒くさかったのか、自分の目の前にある料理には手が出ても、対角線の反対にあるものにはほとんど手が出てない。それに対して丸テーブルでは、誰からも同じ距離で料理が並んでいるから、面倒くさいって感覚がなかったみたいなのです。で、食べる。

 丸か、四角か、どっちでもいいってことかもしれないけれど、けっこう違うってのは、こういうことなのです。デザインってそういうものなんですね。ほとんど趣味の世界のようにも受けとめられているデザインの世界ですけれど、人の世界観やお互いの関係性にまで影響をおよぼす可能性を持っているのがデザインなんです。丸テーブルで思い出すのが、円卓会議って言葉があるとおり、会議や話し合いでは、序列をつくったほうがいい場合と、序列をわからなくしたほうがいい場合とあるわけです。円卓の場合は、序列をわからなくしているんです。また、相手との距離が離れるほど公式的な感じになり、反対に近づくほど私的になり、親密感がましたりするんですね。だから例えば、異性とどんなテーブルで食事をするかということはその二人にとってけっこう大事だったりするんです。そういうの空間や場のしつらえやあり方を考えることも実はデザインの領域なのです。
 よく、天井の高さの違いは、そこで育つ子に影響を与えるって言われます。高〜い天井の家で育った子は気持ちの大きな人間になり、低い天井の家で育った子は人間的に小さいかどうかは一概に決め付けられませんが、一因になりうると、私は感じています。常に陽が射す家に住んで育った子どもと、暗い家の中に天窓から一筋の光が落ちてくる世界で育った子どもの感受性は違うと思います。(どちらがいい子かという問題ではなくて)だからこそ環境をどうしつらえるかは、人にとってけっこう重要だと思うのです。

 私の持論みたいなものなのですが、「人はどんなところでもそれなりに生きられる。人はそんなところなりに生きる。」って考えています。砂漠の中でも、森の中でも、氷の大地でも世界中どんなところでも人は生活しています。その環境に適合するように、知恵と工夫を紡ぎだして生きている人間って素晴らしい存在です。しかし、環境は同時に人生哲学や感受性に明らかに影響をおよぼしています。
 私がこのことで、いつも考えているのは、人ってどんなところでもとりあえず生きていけるんだから、あんまり面倒に考えなくてもたかが家じゃん、気楽にやりませんかってことがひとつ。といいつつも、住む環境は知らず知らずのうちに影響を与える可能性があるから、大事なところは押さえましょう、というのがもうひとつ。矛盾している二つの考えだけど、その両方を同時にとらえることが大事なんじゃないかって思うのです。

 テーブルの形ひとつでも何かしらの違いが生み出されてくるのだから、家を構成するあらゆる要素・・・空間の形、大きさ、色、素材の感触、部屋と部屋のつながり方、光の充たされかた・・・それらの違いで、そこに住む人間の感受性がさらに違ってくるとしたら。夫婦関係に影響があるとしたら?単にグラフィック的とか彫刻的とかとは違う領域のデザイン。そういう部分は趣味の世界とは違い、普遍的に大事にしなければならない・・・そう、思うのです。
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